ヘム鉄とは
女性に多い貧血。
文字通り血液が不足した状態を示す症状ですが、貧血と一口に言っても原因によって主に4種類に分かれ、最も多いのがミネラルの一種である鉄(鉄分)が不足して起こる鉄欠乏性貧血であり、貧血の7割を占めると言われています。
貧血は、月経のある女性の5人に1人が患っているとされ、貧血という明確な診断がなくても、女性は月経や出産、更年期などで貧血になりやすいことから、食生活による予防や改善に鉄を摂るように勧められていますが、実は鉄には2つの種類があることをご存知でしょうか。
ヘム鉄と非ヘム鉄
鉄には、肉や魚などの動物性食品に多く含まれるヘム鉄と、野菜や海藻、豆類、穀物などに多く含まれる非ヘム鉄があります。
一般的な食事から摂取される鉄は圧倒的に非ヘム鉄が多いと言われていますが、非ヘム鉄は腸での吸収率が摂取量のわずか1割程度と言われています。
一方のヘム鉄は、非ヘム鉄と比べて5倍ほど体内での吸収率が高いため、効率よく鉄を摂るならヘム鉄がよいと言われています。
血液が赤い理由
貧血改善に欠かせない鉄の話を進める前に、「血液はなぜ赤いのか」。こんな疑問を一度は持ったことがないでしょうか。
血液が赤いのは、血液の構成成分である赤血球に、ヘモグロビンと呼ばれる赤い色素が含まれているからです。
ヘモグロビンは、ヘム鉄とグロビンというたんぱく質の一種が結合したものを言います。
なお、血液内にヘモグロビンを有するのは、人間を含む脊椎動物が主となっており、タコやイカなどの軟体動物やエビやカニと言った甲殻類は、ヘモグロビンではなく銅を多く含むヘモシアニンという成分を持っているため、銅が酸化されることで血液は青く見えます。
ヘモグロビンの働きと貧血の関係
ヘモグロビンの構成成分であるヘム鉄には、酸素と結びつく性質があり、この働きによって血液を通じて全身に酸素を運搬する働きを担っています。
細胞に酸素が運ばれてエネルギーとして代謝されると二酸化炭素が発生しますが、赤血球は細胞に酸素を送るだけではなく、組織に溜まった二酸化炭素を受け取り、肺に運ぶ働きも行っています。
そのため、鉄が不足してヘモグロビンが作られなくなると、体内は酸素不足の状態になってしまいます。これがいわゆる貧血の状態です。
ただし、鉄は7割ほどが血液に存在し、直接ヘモグロビンの生成に使用されますが、残りの3割は肝臓や脾臓、骨髄などに貯蔵鉄として蓄えられています。そのため、血液中の鉄が不足しても、それが一時的であれば貯蔵鉄がヘモグロビンの生成に利用されるので、すぐに貧血の症状が現れるわけではありません。
しかし、慢性的な鉄不足が続くと、足りない分を貯蔵鉄で補うことができなくなってしまい、貧血になってしまいます。貧血の症状が起こるということは、それだけ不足が進行している、ということでもあります。
女性は鉄分を率先的に取るべき
厚生労働省が行った「国民健康栄養調査」によると、2017年(平成29年)の一日の鉄の摂取量は20~39才の男性で7.3㎎、女性で6.4㎎となっています。
女性の場合、同年齢の推奨量は10.5~11.0㎎(月経あり)なので、摂取量が推奨量に比べて半分近く少ないことがわかります。
さらに、妊娠初期であれば推奨量は8.5~9.0㎎、妊娠後期なら21.0~21.5㎎(ともに月経なし)となっているため、妊娠中の方は特に意識して鉄を摂取する必要があります。
現代人は、食の欧米化に加え、仕事や家事、勉強などの忙しさから欠食をする場合が多いと言われています。また、極端なダイエットや、外食で好きな物だけを食べる食生活などは、体に必要な栄養が不足する原因になっています。
鉄不足の症状
女性は血液を失う機会が多く、気が付かないうちに体内の鉄が不足した状態になりやすいと言われています。
一般的に、貧血は急にふらっと立ちくらみを起こしてしまうイメージがあると思いますが、鉄不足による症状はそれだけではありません。
- 疲れやすい
- 階段を上る時に息切れや動悸がする
- 体がいつもだるい
- 頭痛やめまいがある
- 十分睡眠を摂っているはずなのに眠い
- むくみがある
- 顔色が悪い
- 髪がよく抜ける
- 爪が薄くなり割れやすい、白い
- 口内炎ができやすい
- 肩こり
- 吐き気
- イライラしやすい
- 集中力が切れやすい など
上記の症状は日常よく起こりがちな症状とも言えるため、つい軽く考えてしまいがちですが、きちんと休んでも症状が長引く、だんだんと症状が重くなるなどの場合は、単なる疲れやストレスが原因ではないかも知れません。
これらの症状が鉄不足が原因で起こると知ることで、早めに対処ができます。
隠れ貧血に注意
貧血を疑う症状が出ると、病院ではヘモグロビン値を調べて、貧血かどうかの診断を行います。そこでヘモグロビン値が正常であれば、貧血と診断されることはほとんどありませんが、ヘモグロビン値が正常でも、体内では鉄不足となっていることがあります。
その診断をするのに必要なのがフェリチン値です。
フェリチンとは、鉄を貯蓄しておく時に必要なたんぱく質のことで、フェリチンが減少して起こる鉄不足はヘモグロビン値が異常値になりません。そのため、鉄不足を見過ごされてしまうことも多いことから、このような状態を潜在性鉄欠乏症や隠れ貧血と呼んでいます。
前述した通り、血液内の鉄が足りなくなると貯蔵鉄がその不足分を補うので、一時的であればヘモグロビンは問題なく作られ、貧血のような症状は表れません。
しかし、鉄には赤血球内でヘモグロビンの材料となるだけではなく、神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどを生成する際に必要な酵素の働きを促す作用があるため、鉄が足りなくなるとこれらの神経伝達物質が作られにくくなり、気分が落ち込む、やる気が出ない、不安を感じやすくなるなど、うつのような症状が出やすくなると言われています。
食事での摂り方、サプリメントの利用について
貧血を防ぐには、普段の食事で鉄の摂取を意識することが大切です。
中でも吸収率のよいヘム鉄は積極的に摂るべき!と言えますが、ヘム鉄ばかりを摂ってしまうのも考えもの。なぜなら、非ヘム鉄はヘム鉄に比べて吸収率が悪いものの、非ヘム鉄を多く含む野菜や海藻にはビタミンやミネラルが多く含まれており、中には造血作用のある成分もあるからです。
また、ヘム鉄が多い肉や魚は、脂質も多く含まれているため、摂り過ぎてしまうと肥満や生活習慣病などの原因になってしまいます。
このようなことから、ヘム鉄、非ヘム鉄のどちらか一方だけに偏らず、バランスを考えながら両方を摂取するのがよいです。
ここではまず、ヘム鉄、非ヘム鉄が多く含まれている食物を紹介するので、毎日の食事のメニューを考える時にぜひ参考にしてください。
ヘム鉄を多く含むもの
- 豚レバー
- 鶏レバー
- 牛レバー
- 牛モモ肉
- 牛ヒレ肉
- 鶏ハツ
- 豚ハツ
- かつお
- まぐろ
- 赤貝
非ヘム鉄を多く含むもの
- ひじき
- 小松菜
- 菜の花
- 卵
- 納豆
- ほうれん草
- あさり
鉄の吸収を高める摂り方
吸収率の悪い非ヘム鉄は、ヘム鉄と一緒に摂ると吸収率がよくなります。上記の食物一覧を参考に、ヘム鉄と非ヘム鉄を組み合わせたメニューを考えると、鉄の吸収を促すことができます。
また、ヘム鉄、非ヘム鉄に限らず、動物性たんぱく質やビタミンCは体内での鉄の吸収を助ける働きがあります。
さらに、クエン酸などの有機酸には胃酸の分泌を促す働きがあるため、鉄を摂る前に摂取すると吸収を高めてくれます。
鉄の吸収を妨げてしまう食品に注意
緑茶、紅茶、コーヒーなどに含まれるタンニンやカフェイン、牛乳やチーズなどの乳製品や大豆製品に含まれるカルシウム、加工食品に含まれるリン酸塩には、鉄の吸収を阻害する働きがあります。
食事の前後にこれらの食品を摂ってしまうと、せっかく鉄を摂っても意味がなくなってしまうので注意が必要です。
ただし、カルシウムに関しては通常の摂取量であれば、特に問題はないと言われています。
鉄の過剰摂取に注意
鉄は摂り過ぎてしまうと、肝臓などの臓器に沈着してダメージを与え、肝硬変や糖尿病の原因になると言われています。
なお、通常の食生活では鉄を摂り過ぎてしまうことはまずないので、食事による鉄の過剰摂取は心配しなくてもよいです。
鉄の過剰摂取が起こりやすいのは、サプリメントや栄養補助食品です。
サプリメントは自己判断で摂取しない
健康診断などで貧血気味と指摘されたり、疲れやすさやめまいなどの症状があって貧血を疑う場合に、鉄が配合されたサプリメントを摂取して、症状の改善に努めることがあると思いますが、自己判断でのサプリメントの利用はあまりお勧めできません。
なぜなら、サプリメントは食事から摂るよりも鉄の濃度が高いため、例え用法・用量を守って正しく摂取しても思わぬ事態を引き起こす恐れがあるからです。
サプリメントの摂取によって起こる体調の変化には、吐き気や下痢、便秘、腹痛などがあります。