成長因子とは
先に美容医療で使われ始め、最近は化粧品にも配合されるなど、身近に感じるようになってきたものに「成長因子」があります。
成長因子は細胞増殖因子とも呼ばれ、その名の通り細胞の分裂を促す働きがあります。
たんぱく質の一種で、これまで数多くの成長因子が発見されていますが、その中でも現在のところ特に目にすることが多いのは、次の3種類となっています。
- EGF
- FGF
- IGF
それぞれの具体的な説明は後述していますが、全てにGFという文字が付くことに気付くと思います。
これは、Growth Factor(グロースファクター)の略で成長因子という意味になり、GFの前の文字を見ることで、どの部分に対しての細胞の分裂を活性化させる働きがあるのかがわかるようになっています。
EGFの働き
EGFのEはEpidermal の略で、意味は“表皮”です。つまり、EGFは表皮細胞に関わる成長因子です。
EGFは1962年にアメリカのスタンレー・コーエン博士が発見し、1986年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
(EGFの働きを説明する前に)ターンオーバーについて
人間の肌は、表皮、真皮、皮下組織の3つに分けられ、最も体の外側にあるのが表皮、続いて真皮、内部になるのが皮下組織になります。さらに表皮は、体の内部に近い順から基底層、有棘層、顆粒層、角質層の4つに分けられていて、基底層では肌の再生を促す表皮細胞が生成されます。
基底層で作られた表皮細胞は、そこから押し上げられるように有棘層、顆粒層へ移動し、最後は角質層へと到達します。そして、角質層に移動すると表皮細胞は死細胞となり、角質細胞へと変化します。(これを角化と言います)
角質細胞は、体内から補填される水分の他、有棘層から供給されるセラミド(細胞間脂質)や保湿成分によって潤いを持っており、肌の最も表面となる角質層を外部の刺激から守る働きを担っていますが、一定期間を過ぎると垢となって剥がれ落ちます。
これを、ターンオーバーと呼びます。
ターンオーバーは、表皮細胞が顆粒層にたどり着くまでが14日間、そこから角質層で角質細胞に変化し皮膚を保護する働きを行うのが14日間あり、合計28日間でその役目を終えます。
ただし、この28日間の周期(※1)は20才前後の肌の基準であり、年齢を重ねるとこの周期は長くなっていくため、本来剥がれ落ちるはずの角質層がそのまま溜まった状態となり、触るとごわごわしたり、くすんだ感じに見えるなど、肌トラブルが増えるようになります。
※1 ターンオーバーは部位によって期間が異なり、かかとなど角質細胞の積み重なりが厚いところは年齢の若い方でも50日ほどと言われています。このため、28日周期は、あくまで20才前後の顔の皮膚のターンオーバーということになります。
なお、顔の皮膚のターンオーバーは、どの年齢であっても28日が適切というわけではありません。
年齢を重ねるに従い、ターンオーバーが長くなるのはある意味で仕方がないこと。それを無理に早めてしまうことも、肌トラブルの原因となってしまいます。大切なのは、年齢に見合った正常なターンオーバーを取り戻すことです。
EGFはターンオーバーを正常にする
EGFは、53個のアミノ酸が結合したたんぱく質(※2)です。
基底層にて表皮細胞の増殖を促す働きがあるため、加齢などの原因で乱れたターンオーバーの周期を正常に戻す効果があると言われています。
また、角質層にあるEGFR(表皮成長因子受容体)の働きを活性化させて、基底層から押し上げられる表皮細胞をキャッチし、皮膚表面の修復を促す働きがあると言われています。
このようなことから、EGFにはシミやくすみ、肌のごわつきなどを改善する効果が期待できると言われています。
※2 一般的に、アミノ酸が50個以下結合したものをペプチド、50個以上結合したものをたんぱく質と呼んでいます。
FGFの働き
FGFのFはFibroblast(線維芽細胞)の略です。FGFはEGFと並んで美容医療や化粧品によく使われている成長因子ですが、その作用はEGFとは異なります。
FGFは、表皮の下にある真皮で生成される繊維芽細胞を増殖させる成長因子です。
真皮は乳頭層、乳頭下層、網状層の3層から成りますが、表皮のようにきっちりと層が分かれているわけではなく、その多くは網状層となります。網状層には、基質の他にコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸と言った、肌のハリや弾力、キメを整えるために欠かせない成分が含まれていますが、これらの生成を促す役割を担っているのが線維芽細胞です。
FGFによって線維芽細胞の増殖が促されると、コラーゲンやエラスチンなどの生成が増え、肌の乾燥を防いでしわやたるみなどを改善する効果が期待できる、というわけです。
また、FGFの働きでコラーゲンなどの成分が増えることは、単に美容面で活かされるだけではありません。コラーゲンなどの成分はやけどや深い傷を負った時などに比較的短期間でそれらを治す(目立たなくする)効果があるため、FGFは2001年より上記の症状の治療薬として、医薬品の成分に使用されています。
IGFの働き
IGFのIはInsulin-like(インスリン様)の略で、インスリンによく似た配列を持つ成長因子という意味です。
IGFには「IGF-Ⅰ」と「IGF-Ⅱ」があり、どちらも体内での役割について解明されていない点も多いのですが、IGF-Ⅱは主に胎児期に脳や肝臓、腎臓と言った臓器を形成するために必要な成長因子と見られ、一方のIGF-Ⅰはそれよりも後発で神経や筋肉、骨、皮膚などの細胞の成長に作用すると考えられています。
このようなことから、IGFは皮膚再生などの美容医療にも用いられていますが、それよりも現時点で注目されているのが発毛の効果です。
特にIGF-Ⅰには、髪の毛の元を作り出す毛母細胞の分裂を活性化させ、血管を拡張して血液の流れをよくする働きがあることから、発毛を促す効果があると言われています。そのため、IGFは毛髪の再生医療であるHARG療法に用いられています。
HARGではこの他に、HGH(肝臓の細胞を増やす効果がある成長因子ですが、その後の研究で血管を増やす作用があることがわかっています)や、KGF(毛髪や爪、皮膚の角質層を形成する成分であるケラチンを増やす働きのある成長因子)などを併用して、発毛を促します。
成長因子が配合された化粧品の選び方
美肌やアンチエイジングの効果を狙った化粧品に配合される成長因子は、主にEGFとFGFになります。
しかし、成分表にはこれらの表記ではなく、EGFは「ヒトオリゴペプチド-1」、FGFは「ヒトオリゴペプチド-13」と記載されています。
成長因子配合を謳う化粧品の中には、残念ながら粗悪品も紛れており、成長因子が含まれていないにも関わらずいかにも含まれているような表記をしている場合もあるため、購入の際には必ずこれらの成分が配合されているか確認するようにしましょう。
ちなみに、表皮は厚さが0.2㎜なのに対し、真皮は1.8㎜あり、肌の90%を占めていることから、成長因子を利用して肌の調子を整える場合には、EGFだけではなくFGFと併用することでその効果が高まるとされています。
また、EGFについては日本EGF協会というNPO法人が、「1ml中に0.1μmg以上配合」という基準を設けており、基準を満たしている商品については認定マークを与えています。
EGF配合の化粧品を選ぶ際には、このような認定マークがあるものを選ぶと安心です。
成長因子が配合された化粧品についての注意
現在、成長因子の医学的な効果が認められているのはFGFのみです。
しかも、美容目的ではなく、やけどの痕や傷などを治すために用いられるもので、使用方法もスプレーによる方法に限定されています。そのため、美容医療で用いられている注射器によるEGFやFGFの注入では、必ずしも上記で挙げた効果が保障されているわけではありません。
また、薄い表皮にコラーゲンなどを増やすことで、しこりなどの副作用が発生することがあります。
さらに、成長因子は細胞の増殖を促す作用があり、その細胞が必ずしも正常であるとは限りません。例えばDNAが損傷した細胞、つまりはガン化する恐れのある細胞が増殖する可能性もあるということを頭に入れておくべきでしょう。
そもそも、皮膚の塗るタイプの化粧品で、細胞を活性化させるだけの効果が期待できるのかと言った疑問もあるのが現状です。
このようなことから、成長因子を用いた美容医療や化粧品を使用する時には、魅力的なキャッチコピーに踊らされることなく、できるだけ多くの情報を集めて判断することが大切だと言えます。