ユーグレナとは
ユーグレナという言葉に聞き覚えがなくても、ミドリムシなら聞き馴染みがある方が多いと思います。
小学校の理科の授業で、水たまりや池などの水をすくって顕微鏡で覗き、そこに生きる生物の生態を調べたことがありませんか。その時に見た緑色の生物こそミドリムシです。
なお、ミドリムシは実は日本での呼び方(和名)であり、学術名はユーグレナと言います。
世界的にはユーグレナと呼ばれることが多いことから、近年では日本でもユーグレナと呼ぶ場合が増えています。
ユーグレナ(Euglena)という名前には、ラテン語でeu(美しい) glena(眼)という意味があり、その名の通り、緑色の体に映える赤い綺麗な点を持っているのが特徴です。
植物と動物の性質を両方持っている
ユーグレナは、ユーグレナ植物門ユーグレナ藻鋼ユーグレナ目に属する単細胞生物です。
和名がミドリムシであるため、虫だと思っている人も多いと思いますが、わかめなどと同じ藻の一種であると言われています。しかし、ユーグレナは葉緑体を持って光合成をする傍ら、鞭毛によって動くことができるため、完全なる植物ではありません。つまり、ユーグレナは植物と動物の両方の特徴を持っているのが大きな特徴となっています。
そのため、学者の間でもユーグレナが植物か動物かという論争が今も続いています。
ユーグレナ=ミドリムシではない
ユーグレナが属するユーグレナ藻は、ミドリムシ単体を指すのではなく、ユーグレナ藻鋼ユーグレナ目に属する生物全体の総称となっています。
そのため、ユーグレナと一口に言っても、実際にはユーグレナグラシリスやユーグレナサギネア、ユーグレナプロキシマなど、世界には40属1,000種類ものユーグレナが存在すると言われています。(ただしこれも、ユーグレナとする定義が曖昧なため、正確な分類は難しいと言われています)
種類によって保有する栄養素などが違い、現在ユーグレナ関連商品として販売されているものは、ユーグレナグラシリスの培養によって製造されたものになっています。
以上のことから、ここではユーグレナ=ユーグレナグラシリスとして話を進めています。
ユーグレナの栄養成分
体長はわずか0.05㎜と、顕微鏡で見なければその姿を確認することができないほど小さいユーグレナですが、そこには59種類もの栄養素を備えていることから、ユーグレナは「完全栄養素」と呼ばれるほど豊富な栄養を備えています。(※ ユーグレナグラシリスの場合)
ここでは、ユーグレナに含まれる栄養素をすべてご紹介したいと思います。
アミノ酸
バリン・ロイシン・イソロイシン・アラニン・アルギニン・リジン・アスパラギン酸・グルタミン酸・プロリン・スレオニン・メチオニン・フェニルアラニン・ヒスチジン・チロシン・トリプトファン・グリシン・セリン・シスチン (全18種類)
ビタミン類
α-カロテン・β-カロテン・ビタミンB1・ビタミンB2・ビタミンB6・ビタミンB12・ビタミンC・ビタミンD・ビタミンE・ビタミンK1・ナイアシン・パントテン酸・ビオチン・葉酸 (全14種類)
ミネラル類
亜鉛・リン・カルシウム・マグネシウム・ナトリウム・カリウム・鉄・マンガン・銅 (全9種類)
不飽和脂肪酸
DHA・EPA・パルリトレイン酸・オレイン酸・リノール酸・リノレン酸・エイコサジエン酸・ジホモγ-リノレン酸・アラキドン酸・ドコサテトラエン酸・ドコサペンタエン酸 (全11種類)
その他
パラミロン・クロロフィル・ルテイン・ゼアキサンチン・GABA・プトレッシン・スペルミジ
ユーグレナはアミノ酸スコアが優秀
アミノ酸は体内で臓器や筋肉、皮膚、髪、爪などになるたんぱく質の原料として知られています。アミノ酸を摂ることは私達が生きていく上では欠かせないのですが、中でも特に、体内で生成することができない必須アミノ酸は食事などから意識して摂ることが大切です。
また、必須アミノ酸を生かすには、全9種類を摂取することが大事だと言われています。どれか1種類だけを摂っても、体内では思うように働くことができないのです。
食品に対してどれだけ必須アミノ酸が含まれているのかを計る指標は、「アミノ酸スコア」と呼ばれます。アミノ酸スコアは数値化されており、9種類の必須アミノ酸がバランスよく含まれている食品は、アミノ酸スコア100となります。そのため、毎日の食事はアミノ酸スコアが100となるように摂ることが大切。
しかし、アミノ酸スコア100となる食品は動物性では多いですが、植物性ではありません。栄養価が高い野菜として知られているブロッコリーでも80、トマトは51、にんじんでは50しかありません。
そんな中でも、ユーグレナのアミノ酸スコアは83あるため、他の植物性食品よりもアミノ酸を効率よく摂取することができます。
地球上でユーグレナだけが持つ成分
ユーグレナに含まれるパラミロンは、生物ではユーグレナのみに含まれる唯一無二の成分です。
パラミロンはβ-グルカンの一種です。β-グルカン自体は海藻類やきのこ類にも含まれていますが、β1、3-グルカンが塊となって存在するパラミロンを含むのはユーグレナの他にありません。
パラミロンにはミクロホールと呼ばれる無数の穴が表面に空いており、この穴にコレステロールなどの有害物質が付着、吸着することで、余分な物質を体外へと排出するデトックス作用があると言われています。
また、パラミロンは食物繊維と同じ難消化性の性質を持つことから、腸で吸収されずに老廃物などを絡めて排出させる働きにも優れていると言われています。
93.1%の栄養消化率
ビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素を摂るなら野菜からで十分では?と考える人も多いと思います。
しかし、野菜には栄養の吸収を妨げてしまう細胞壁が存在するため、実質的には摂取した栄養の40%ほどしか体内に吸収することができないと言われています。
一方のユーグレナには元々細胞壁がありません。
代わりに細胞を細胞膜が覆っているのですが、ユーグレナの細胞膜は人が持つ消化酵素によって破壊することができるため、栄養素をくまなく吸収することができるのです。その吸収率は90%を超えており、多くの栄養素を効率よく摂取することができます。
ユーグレナの歴史と現在
ユーグレナは多くの栄養素を持ち、特有の成分を含んでいることから、次世代の食料として世界中の研究者が大量に培養できる技術を研究していました。
しかし、ユーグレナはその栄養価の高さから、バクテリアによって捕食されやすく、大量培養を目指しては挫折をする企業が後を絶ちませんでした。
NASAも断念
1970年代には、アメリカ航空宇宙局(NASA)が宇宙食としてユーグレナを利用できるよう開発に力を注ぎましたが、あのNASAを以てしてもユーグレナの培養は難しく、よって世界ではユーグレナの培養は不可能だという認識を持ち始めていました。
東京大学のベンチャー企業が培養に成功
それが、2005年に東京大学農学部の学生を中心として発足したベンチャー企業が、ユーグレナの大量培養に成功します。
そのベンチャー企業は現在、「株式会社ユーグレナ」として、食用粉末に加工したユーグレナを使った健康食品の販売やバイオ燃料の活用などを行っています。
なお、ユーグレナという名称は商標登録されており、株式会社ユーグレナが開発、生産した商品にのみ利用が許可されています。
生産工場は沖縄県石垣島にあり、専用の培養プールにて約1ヶ月半の期間をかけて培養されています。
ユーグレナの培養技術は特許を取っていない
世界の誰も成し得なかったユーグレナの大量培養に成功した場合、多くの方は特許を出願してその知的財産を守ろうと考えるのではないでしょうか。しかし、株式会社ユーグレナでは培養技術の特許申請をしていません。その理由は、特許を取ると出願から1年半後には、その内容が公開されてしまうからです。
つまり、特許を取得することで、ユーグレナの培養技術を多くの人に知られてしまうということになるのです。また、特許は登録から20年が過ぎれば誰でもその技術を利用することが可能となるため、他の企業でもユーグレナの培養ができてしまいます。
以上のことから、株式会社ユーグレナは特許を取得せずに、ユーグレナの培養技術を守る方法をとっています。
このような、あえて特許を申請しないやり方は、身近なところではケンタッキーフライドチキンが有名です。ケンタッキーフライドチキンでは、スパイスの配合を特許申請せずに、秘匿化することで技術の漏洩を防止しています。
ユーグレナの活用
ユーグレナは現在、主にサプリメントなどの機能性食品として販売されている場合が多いです。
これは、ユーグレナに含まれる成分によって、健康やダイエットなどの効果が期待されるからです。
また、ユーグレナから抽出された成分を使って、化粧品の開発も進められています。
すでに商品化されているものもあり、体の外からユーグレナの働きによってアンチエイジングなどの効果が期待できると言われています。
さらに、あくまでもマウスによる実験段階ですが、ユーグレナの摂取によって大腸ガンや筋委縮症の抑制効果、インフルエンザ症状の緩和、糖尿病やメタボリックシンドロームの改善などの効果があることが示唆されています。
このようなことから、一部の製薬会社がユーグレナを利用した医薬品の開発を始めるなど、今後は医薬品としての活用も期待されています。
2020年を目標にバイオ燃料の開発にも着手
ユーグレナは食品や医薬品だけではなく、バイオ燃料としての活用を目指して日々開発が進んでいます。
バイオ燃料とは、資源に限りがあって枯渇が懸念されている石油や石炭ではなく、主に農作物などの植物を原料とした燃料のことを言います。トウモロコシやサトウキビなどを燃料にしたバイオ燃料はすでに開発されていますが、一方で燃料として利用するために、今度は食料不足が不安視されています。また、このような原料では一年を通じて安定した供給ができないのも、バイオ燃料の問題点と言われていました。
そこで、新しいバイオ燃料として注目されているのがユーグレナです。
ユーグレナは農作物を利用した燃料ではないですし、生産できる季節が限定されることもありません。バイオ燃料としての利用が可能になれば、安定供給が可能と言われています。
すでに、ユーグレナを燃料にして自動車を走らせることには成功していますが、引き続き飛行機のジェット燃料の活用も視野に入れた開発が行われています。