食物繊維とは
食物に含まれる栄養素の多くは、人の体内に入ると消化酵素によって分解され、小腸にて吸収されますが、食物繊維は消化酵素で消化されず、そのまま大腸へと進んで排泄されます。
そのため、1970年代くらいまでは食物繊維は「取るに足らないもの(=必要のないもの)」と見なされ、単に食物のカスであり、特に人の体にとって役割を果たすものではないと考えられていました。
しかしその後の研究で、食物繊維の摂取量が少ない人は大腸ガンなどの病気を発症するリスクが高いことがわかりました。
これを受け、日本でも2000年に厚生労働省が「国民健康・栄養調査」に食物繊維の項目を入れ、糖質、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素に続いて、食物繊維を第6の栄養素として積極的に摂取するよう推奨しています。
食物繊維の定義
これまでの研究で、食物繊維は様々な作用を持っていることがわかっていますが、世界共通の定義は今もなお決まっていません。
日本では「人の消化酵素では消化できない難消化性成分の総体」という考え方が一般的となっています。
一日の理想的な食物繊維の摂取量
厚生労働省は、食物繊維の一日の摂取量の目安を成人で24g以上としています。(理想的なのは1,000㎉に対し14gの摂取としています)
しかし、2015年の調査では、20才以上では15gしか摂取できていないことがわかりました。そこで現実的な数値として、成人男性は20g以上、成人女性は18g以上の摂取を目安としています。
食物繊維には2種類ある
食物繊維は水に溶けやすいもの(水溶性食物繊維)と、水に溶けにくいもの(不溶性食物繊維)の2つに大別され、それぞれ異なった特徴や働きを持つことがわかっています。
水溶性食物繊維の特徴や働き
水溶性食物繊維は、その名の通り、水に溶けやすい性質を持つ食物繊維です。
食物繊維はその名称から、筋っぽいイメージを持っている方が多いと思いますが、水溶性食物繊維が多く含まれる食物は、ネバネバ、ヌルヌル、ドロドロ、サラサラとしていて粘性があり、繊維っぽくはありません。
水溶性食物繊維には、グルコマンナン、ペクチン、アルギン酸、オリゴ糖などの成分があり、主に海藻類や野菜、果物、きのこ類などに多く含まれています。
主な働き
水溶性食物繊維は水に溶けてゲル状になると、胃や腸内をゆっくりと移動しながら、コレステロールやナトリウムなどを吸着し体外へと排出します。
このような働きにより、コレステロール値の低下や高血圧の予防や改善に効果があると言われています。
また、便をやわらかくする働きによって便が腸内を移動しやすくなり、便通を促す効果もあります。
さらに、水溶性食物繊維は腸内の善玉菌のエサとなるため、腸内環境を整えて腸の動きを活性化させる作用もあります。
水溶性食物繊維を多く含む食物
- わかめ
- 昆布
- りんご
- バナナ
- 納豆
- おくら
- なめこ
- 押し麦
- にんにく
- ゆりね
最近よく聞く「難消化性デキストリン」とは?
難消化性デキストリンは、トクホ(特定保健用食品)に多く含まれています。トクホとは、「特定の保健の目的で摂取する者に対し、その摂取により当該保健目的が期待できる旨の表示が許可された食品」を指し、消費者庁より認められたものを言います。
スーパーやコンビニなどで「脂肪の吸収を抑える」「糖の吸収を穏やかにする」などの表記がされた飲料を目にしたことがあると思いますが、これらはトクホの食品です。
そして、上記の効果を促す成分として含まれているのが難消化性デキストリンです。
難消化性デキストリンは、じゃがいもやトウモロコシなどに含まれるでんぷんを加水分解して取り出したもので、水溶性食物繊維の一種です。
不溶性食物繊維の特徴や働き
不溶性食物繊維は、水に溶けにくい性質を持ち、穀物や野菜、きのこ類、豆類、海藻類の他、カニやエビなどの甲殻類の殻にも多く含まれています。
不溶性食物繊維にはセルロース、リグニン、キチンなどの成分がありますが、人が摂取する食物繊維の約70%はセルロースと言われています。
食物繊維=ボソボソとした食感やザラザラとした舌触り、というイメージを持っている方は多いと思いますが、それには摂取量の多い不溶性食物繊維が食物繊維の代名詞となっている背景が考えられます。
主な働き
不溶性食物繊維は保水性に優れ、胃や腸内で水分を吸って大きく膨らみます。そのため、便のかさが増し、腸壁を刺激して腸のぜん動運動を活発にさせて便通を促進します。
また、不溶性食物繊維には繊維状だけではなく、蜂の巣状やへちま状などの多孔質も含まれます。多孔質とは、穴(孔)がたくさん空いた形状のことを言いますが、このような形状は表面面積が広くなるため、有害物質などが吸着しやすくなり、便と一緒に排出されやすくなります。
なお、食物繊維に大腸ガンなどを予防する効果があると認められているわけではありません。
現段階では、食物繊維の摂取量が少ない人は大腸ガンを罹患する確率が高いことがわかっているものの、逆に食物繊維を多く摂っていれば大腸ガンを予防する効果があるとは言えません。
不溶性食物繊維を多く含む食物
- いんげん豆
- たけのこ
- ごぼう
- 菜の花
- 大豆
- 春菊
- 枝豆
- おから
- しいたけ
- さつまいもなど
食品の多くは不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の両方を含んでいる
食物繊維が含まれる食品のうち、どちらか一方の食物繊維しか含まれていない場合は少なく、多くは水溶性食物繊維、不溶性食物繊維の両方を含んでいます。
例えば、ボリボリとした食感が特徴のごぼうは、不溶性食物繊維が多い食品に思われがちですが、100gあたりに含まれる食物繊維5.7g中の割合は不溶性食物繊維が3.7g、水溶性食物繊維が2.3gとなっています。
食物繊維が不足するとどうなる?
食物繊維が不足すると、腸内環境が悪化して便秘になりやすくなります。
2013年の厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、成人の14%が「自分は便秘症である」と答えています。これは7~8人に1人の割合となりますが、この割合は以前に比べて大幅に増加しています。
その原因には食生活の欧米化が考えられます。
昔の日本人は、アメリカ人に比べて大腸ガンの発症が少なく、それは食物繊維を多く摂取しているためだと言われていましたが、2008年の調査によると食物繊維の摂取量は1947年に比べて約半分まで減っていることが明らかとなっています。
便秘が引き起こす主な症状
肌荒れ
腸内に便が溜まった状態になると、やがて発酵してガスを発生させます。
ガスは腸壁から血液へと吸収され全身を巡るため、皮膚の再生や修復を促す細胞の働きを弱めてしまい、ニキビなどの肌トラブルが起こりやすくなります。
イライラしたり、落ち込みやすくなる
腸と脳には腸脳相関と言って、お互いの影響を受けやすいと言われています。
そのため、便秘で腸の働きが悪くなると、脳にも影響してイライラしやすくなる、気分が落ち込むなどの症状が現れることがあります。
疲れやすくなる
便秘になって腸の動きが低下すると、胃など他の消化器官の働きも悪くなり、食物から十分な栄養を吸収することができなくなります。
また、ガスが溜まってお腹が張り、食欲が落ちてしまう場合も。
このような状態が続くと体は慢性的なエネルギー不足となり、疲れやすくなる、疲れがなかなかとれないなどの症状が現れるようになります。
肩こりや腰痛、背中の痛み
便秘によってガスが溜まると血行が悪くなり、肩こりや腰痛などの症状が起こることがあります。
また、放散痛と言って、全く関連のない背中などに痛みが出ることもあります。
便秘の放置は大腸ガンや死に至る場合も
便秘が慢性的になると、それだけ有害物質が腸に長く留まることになり、大腸ガンの発症リスクを高めてしまいます。
また、腸に便が溜まると水分が抜け、どんどんと固くなり、さらに排便しにくくなるという悪循環が生まれます。
こうして腸に便が溜まり過ぎてしまうと、やがて腸閉塞を起こし、最悪の場合は死に至ることもあるのです。
日本人は特に水溶性食物繊維が不足している
日本人の主食であるお米は炭水化物です。
炭水化物とは糖質+食物繊維の総称のため、一見するとお米を毎日食べていれば食物繊維はそれなりに摂れている気がしますが、お米に含まれているのは不溶性食物繊維のみで水溶性食物繊維は含まれていないため、水溶性食物繊維の摂取量は圧倒的に足りていないのが現状です。
そのため、上記でご紹介した水溶性食物繊維が多く含まれる食品を意識して摂取する必要があるのですが、毎日食品を選びながら献立を考えるのは一苦労です。
そこでお勧めなのが押し麦です。
押し麦は蒸してサラダなどにして食しますが、手軽なのは白米に混ぜて主食として食べる方法です。
押し麦は、単体で食べるとボソボソとした食感が気になりますが、白米と混ぜて炊くとこの問題が解消されますし、主食一つで不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の両方を摂ることができます。
食物繊維はバランスが大事
食物繊維の摂取は「不溶性2:水溶性1」が理想と言われています。
これは、慢性便秘症の患者が食物繊維を摂取した時、不溶性食物繊維14g、水溶性食物繊維7gの割合で摂取した場合に最も排便効果が見られたという研究結果によるものです。
こんにゃくは不溶性食物繊維
こんにゃくには、水溶性食物繊維のグルコマンナンが豊富に含まれていますが、こんにゃくの形に凝固させるために水酸化カルシウムを入れると、水溶性食物繊維が不溶性食物繊維に変化してしまいます。
水溶性食物繊維を摂ろうとこんにゃくを食べても、不溶性食物繊維を摂ることになるので注意しましょう。
ダイエットに食物繊維がよい理由
食物繊維は健康や美容だけではなく、ダイエットでも有効に作用します。
食物繊維の摂取によって便秘が解消されると、それだけでぽっこりお腹が凹むなどの効果が期待できますが、その他にも次のような効果があると言われています。
食べ過ぎを防ぐことができる
不溶性食物繊維が多く含まれる食品は、固く噛み応えがあるため、自然と咀嚼回数が増えて食べ過ぎを防ぐことができます。
咀嚼回数が増えると唾液の分泌が盛んになり、脳の中枢神経が刺激されて満腹を感じやすくなると言われています。
満腹感が持続する
水溶性食物繊維は、ゲル状になることで胃や腸の中をゆっくりと移動します。
そのため、胃や腸に食物が留まる時間が長くなり、満腹感が持続しやすくなります。
血糖値の急上昇を防ぐ
水溶性食物繊維を多く含む食品を摂取すると、糖の吸収を行う小腸に辿りつくまでに時間を有するため、その分糖の吸収が穏やかになり、血糖値の急上昇を防ぐことができます。
血糖値が上がると、糖をエネルギーに変えるために膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。
インスリンは適量であれば、糖を必要とする細胞へと運び、エネルギーとして利用させる働きがあるものの、大量に分泌されると余った糖を脂肪として溜め込んでしまう性質を持っています。
インスリンが過剰に分泌されるのは、糖質の多い食物を摂取して糖の吸収が急激に行われた時です。
このようなことから、食物繊維を摂取することで食後の血糖値を急激に上げないようにするとダイエットに繋がります。
食物繊維は摂り過ぎに注意
コレステロールを排出する、血圧を下げる、血糖値の急上昇を防ぐなど、食物繊維は健康やダイエット、美容によい効果が数多くあります。
しかし、だからと言ってたくさん摂り過ぎてしまうのはいけません。
食物繊維を摂り過ぎると、体に必要な栄養まで排出を促してしまいます。中でも、亜鉛や鉄などのミネラルは、子どもが不足すると成長障害や味覚障害、免疫力の低下などを引き起こしやすくなるため、特に成長期は過剰な摂取は禁物です。
ビタミンやミネラルの吸収の阻害は、不溶性食物繊維よりも水溶性食物繊維の方が高くなるので、食べ過ぎないように注意をして下さい。
また、不溶性食物繊維は適量を摂る分には便のかさを増やして便秘の解消に効果がありますが、摂り過ぎると便を固くしてしまい、便秘をさらに悪化させてしまう恐れがあります。
便秘でおならがよく出る、おならが臭い時は不溶性食物繊維は控える
おならが臭いのは、腸内で悪玉菌が増殖している証拠。
そのような時に不溶性食物繊維を摂り過ぎてしまうと、腸内環境を整えるどころか悪玉菌のエサとなってしまい、便秘やおならの臭いがさらにひどくなります。
この場合にお勧めなのは、少なくなってしまった善玉菌を増やすために、善玉菌のエサとなるオリゴ糖を摂取すること。
善玉菌の一種である乳酸菌が多いヨーグルトを摂る方法もありますが、腸内に善玉菌が少ない時に乳酸菌を摂っても腸内で増えることはほとんどありません。それよりも、オリゴ糖を摂って腸内にいる善玉菌の数を増やすことがまずは大事です。
なお、善玉菌が増えすぎてもよくないので、善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7のバランスを保つようにしましょう。
軟便や下痢の時は水溶性食物繊維は控える
軟便や下痢で腸の調子が悪い時、腸内環境を整えるつもりで水溶性食物繊維を摂ると、返って症状が悪化してしまうことがあります。
水溶性食物繊維には便をやわらかくする働きがあるので、このような時は水溶性食物繊維の摂取は控えるようにしましょう。