ここでは農薬が初めて使われるようになってから、今に至るまでの簡単な流れを紹介しています。
農薬の使用は私たち消費者の健康だけでなく、農家の人の健康、地域の環境問題に深く関係しています。
農薬取締法があったり、農林水産省が新しく規制を設けたり、自分たちだけではどうにもならない難しい問題ですが、少しづつ世の中が人間にも環境にも他の多くの生き物にも優しい「農業」に向けて動いているのは確かなようです。
目次
農薬は農業効率を上げる夢の薬だった
少し難しいお話ですが、農薬取締法において農薬とは下記のように定められています。
農作物(樹木及び農林水産物含む)を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルス(病害虫)の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤及び農作物などの生理機能の増進又は抑制に用いられる植物の成長調整剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう
その他の項目には農作物を加害する害虫の天敵も入っていて、例えば合鴨農法などはこれに該当するため「農薬不使用」とは名乗ることができません。薬より合鴨の方が随分安全なのに、これはちょっと不思議です。
農薬は医薬品開発の副産物、おまけのような形で第二次世界対戦後に登場しました。
除草剤もどんどん開発されて、戦後すぐの頃は10アール(1000平方メートル程度)当たり50時間程、除草にかかっていたものが、1999年では10アール当たり2時間で済むようになったのです。時間だけ見ると、確かにこれは画期的だといえます。
農薬使用で死亡事故多発!
農薬が登場した当初は何の規制もなく、作業効率を良くする薬としてあっという間に広まりました。しかし土壌や野菜などに農薬が残るだけでなく、人への直接的な毒性が高いものも多く、農薬散布中やその後の事故が数多く起こったのです。
特に問題となった昭和30年代から40年代にかけては、年間30人以上の死亡事故がおこりました。
このため昭和46年に農薬取締法を改正して「国民の健康の保護」と「国民の生活環境の保全」を決め、安全な農薬の使用方法を細かく決めることとなったのです。
毒性の特に高いものは使用を禁止され、農薬を作る会社、輸入会社などは厳しい管理を求められるようになりました。
しかし今でも稀に死亡事故が起こっており、一部の農家さんの間では、「農薬を撒いた日に酒を飲むな。循環がよくなって農薬が体中にまわって死んでまう」と言い継がれているそうです。
新しい農薬の登場
「ネオニコチノイド」という農薬を聞いたことはありますか?
ネオニコチノイド系農薬は、1990年代に登場、あっという間に世界で使われるようになりました。
ネオニコチノイドは、ニコチンに似た成分で、水に溶けやすく殺虫成分が作物全体に広く浸透します。つまり、土にまくと吸収した成分が茎や葉まで殺虫成分がゆきわたり、その葉を食べた虫が死ぬという仕組みです。
長く効果を発揮するため、撒く回数を少なくできるというメリットもあります。お米作りにおいては、苗の段階でネオニコチノイド系農薬に浸すだけで刈り取りの段階まで効果があると最近よく使われています。
農家さんの立場からすると田畑に撒くそれまでの農薬と違い、自分が吸う量は少なくなり、また散布回数を少なくすることもできます。これにより「減農薬」と表示することもできるようになりました。
効果は昆虫のみに発揮し、人間へは安全と言われていますが本当にそうでしょうか?大きな疑問が残るところです。
ネオニコチノイド系農薬が広まるのと同時に、ハチの大量死があちこちで報告されるようになりました。この原因がネオニコチノイド系農薬ではないか?と言われています。日本でも(独)農研機構と(独)農業環境技術研究所が、ミツバチの大量死の原因についてレポートを報告しています。
これを受けヨーロッパを中心に予防原則※にもとづき、ネオニコチノイド系農薬の使用禁止する動きが広がっています。
※予防原則とは、化学物質や遺伝子組換えなどの新技術に対して、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分に立証されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のこと。
日本の農薬使用量は世界トップ?!
前の記事でも触れましたが、日本は単位面積当たりの農薬使用量が、中国、韓国に次いで世界3位というOECD(経済協力開発機構)の報告があります。(2010年データによる)
「農薬の使いすぎでは?」という声もある一方、これは「単位面積当たり」というところがミソで、作物(野菜)ごとの使用量を比較するとそれほど突出している訳ではない、という意見もあります。
しかし、日本が世界でもトップクラスの農薬使用国であることは間違いありません。農薬は農薬取締法によって使用が厳しく決まっていますが、化学物質や殺そ剤を含むため、できるだけ取り入れたくないものです。
環境に優しい農業を考える動き
農薬や化学肥料を大量に使うことは、人間だけでなく、昆虫・鳥・雑草・土壌・川・空気など周囲に大きな影響があります。また、大量に化学肥料を使い続けると、やがて土地は痩せ、塩害を起こし、作物は成長しなくなってしまいます。
そんな農業が環境に優しいと言えるでしょうか?
最近では、農林水産省でも環境に優しい「環境保全型農業」を訴えるようになりました。資料によると、「例えば、私たちの食べ残しなどを発酵させてたい肥を作り、これを使って栽培に必要な土作りをします」とあります。
また、環境にやさしい農業の一つとして、冬期湛水水田をあげています。冬期湛水は、除草剤使用を減らすことに役立ちますが、一方で水が張られた水田には、冬鳥がやってきます。トキ・コウノトリ・ガンなどの多様な生き物との共生を図ることができるという訳です。
環境に優しく、また持続可能な農業という点においても、農薬・化学肥料の使用は極力しないほうがよいという動きが見えつつあるようです。
有機農業調査事業実需者(消費者)報告書 によると、56%の人が米・野菜・果物等(農産物)が有機であることに関心がある、と答えています。一方で、日本の耕地面積に占める有機栽培のシェア率は、わずか0.2%。まだまだ、といった感がありますね。
見た目やブランドにとらわれず、安全な野菜を選ぶ消費者が増えていけば、やがて農業全体の仕組みを変えることができるかもしれません。
次のページでは、もっと身近な、私たちが買い物できる野菜に残っている農薬について触れます。
>>「残留農薬・輸入農作物の問題」を読む。