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ファイトケミカルとは
ファイトケミカル(フィトケミカル)とは、ギリシャ語のPhyto(植物)と英語のchemical(化学的な)から成る造語で、植物性食品に含まれている化学物質の総称を言います。
植物性食品を具体的に挙げると、野菜や果物、穀物、芋類、豆類、海藻、お茶、菌茸類(きのこ)、ハーブなどがあり、どれも私達の食生活に深く関わっているものばかりです。
化学物質と聞くと人工的に作られて体に悪いイメージがありますが、科学的には元素と元素が結びついたものはすべて化学物質になります。そのため、自然界には元から化学物質が存在しています。
植物は自分で自分を守るしかない
日本でも人気の高いスーパーフードの一種であるアサイーは、深紫色の実が特徴です。
アサイーは赤道直下の南米アマゾンが原産のフルーツ。強烈な紫外線と雨が降り注ぐ過酷な環境で育つため、自らの実を黒くすることで少しでも表面で日光を吸収し、実に及ぶ影響を抑えています。このアサイーの色素こそが、ファイトケミカルによるもの。
人は外に出て日差しが強いと、サングラスをして日光を遮ることができますが、植物はそういきません。しかしそのままでは紫外線に晒されてすぐに命を枯らすことになってしまうため、自身を保護する成分を生成できるようになったと言われています。
また、虫や動物などの外敵に食べられないようにするため、独特の香りや苦味、渋味などを持つ植物もいます。
このように、植物が自分を守るために備えた力がファイトケミカルなのです。
第7の栄養素として注目
ファイトケミカルは、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維の6つの栄養素に続く「第7の栄養素」として今、大変注目を集めています。
昔から野菜を食べなさいとよく言いますが、これは元々は野菜に含まれるビタミンやミネラルを摂りなさいと言う意味であったと思われます。
しかし近年、野菜に含まれる食物繊維やファイトケミカルには、生理機能成分として私達が健康に生きるために重要な役割を持つことがわかってきました。つまり、野菜を食べることの意味は、時代とともに少しずつ変化していると考えられます。
なお、生理機能成分とは体の生理機能(例えば、栄養の吸収や排出など)を指す場合と、生理機能による効果(食物繊維を摂ることによってお通じの改善が見込めるなど)を指します。
どちらにしても、人は自らの体内でファイトケミカルを生み出すことができないため、植物性食品から摂取する必要があるのです。
アメリカではすでに抗酸化力が数値化されている
日本ではまだ抗酸化についての明確な指標はないのですが、アメリカではすでにORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity)という評価法が存在しています。
これは、アメリカ農務省と国立老化研究所が開発したもので、活性酸素の除去能力を数値化したもので、サプリメントや飲料へのORAC値の表記が始まっています。海外製のサプリメントを選ぶ基準にもなりそうです。
ファイトケミカルの効果
1つの野菜や果物に1種類のファイトケミカルが含まれているのではなく、多くは複数のファイトケミカルが含まれています。
ファイトケミカルの種類によって様々な効果が期待できますが、どのファイトケミカルにも共通する効果があります。それは「抗酸化作用」です。
抗酸化作用とは
私達は生きるために呼吸を行いますが、吸い込んだ空気には20%ほど酸素が含まれています。
酸素には食事で摂取した栄養をエネルギーに変える働きがありますが、吸い込んだすべての酸素はそれだけに使われるわけではなく、そのうちの2%は活性酸素という物質に変化します。
活性酸素は、体内に侵入してきた細菌やウイルスを酸化させることで感染症などから体を守るという重要な役割を担っていますが、その一方で、活性酸素が体内で増えすぎてしまうと、健康な細胞まで酸化させて傷つけてしまいます。
抗酸化作用とは、このような体の酸化を防ぐ働きのことを言います。
体が酸化するとどうなるのか
鉄は外に放置しておくと、錆びて赤く朽ちていきます。これは、鉄と酸素が結びつくことで酸化鉄という物質ができ、それが赤い錆びとなって見えているからです。
細胞が酸化するというのは、それと同じ状態が起こっていることになります。
活性酸素によって、体内の細胞の酸化が進んでしまうと、次のようなことを起こりやすくなります。
- みずみずしい肌を作る細胞が壊れることで、肌のターンオーバーが乱れ、しわやシミ、くすみ、たるみができる。
- 髪を黒く色づけする細胞を傷つけるため、髪が生えても黒くならず、白髪が多くなる。
- 細胞の働きが弱まって免疫力が落ちるので、風邪などの感染症やアレルギーを発症しやすくなる。
- 細胞膜が酸化することで過酸化脂質となり、それが血管内に付着すると動脈硬化や高血圧の原因となる。
- 傷ついた細胞が増殖してガン化し、ガンの発症原因となる。
- 脳卒中や脳梗塞と言った重篤な症状を引き起こす病気の発症原因となる他、認知症の発症を促す。
とは言え、私達の体には元々、活性酸素による細胞の酸化を防ぐ働きが備わっているため、呼吸で取り入れた酸素の量では、このような症状は起こりにくいと考えられます。
しかし、その働きも加齢とともに衰えてしまい、さらに活性酸素は偏った食生活や運動不足、または過度の運動、喫煙、飲酒、紫外線、ストレスなどで増えやすいことがわかっています。
活性酸素を増やさないためには、まずは上記のような生活習慣を改めることが大事ですが、それと同時に増えすぎた活性酸素を除去することも必要です。抗酸化作用を持つ食物を摂取することは、老化や病気を防ぐためにとても大切なことなのです。
ファイトケミカルの種類
ファイトケミカルは、およそ1万種類に及ぶ数が存在すると言われています。
そのうち、現時点でわかっているのは1,500種類ほどですが、一般的によく知られているものとして、ポリフェノール(フラボノイド)、カロテノイド、イオウ化合物、テルペン、サポニンがあります。
ここでは、これら5種類についてご紹介したいと思います。
ポリフェノール(フラボノイド)
ポリフェノールは、光合成によって植物が生成する化学物質の総称です。
ポリフェノールが日本でよく知られるようになったのは、1997年の赤ワインブームが切っ掛けです。
それまでも数年おきに赤ワインブームが到来していましたが、この時は赤ワインに含まれるポリフェノールが体によいことがわかり、美味しく飲めるだけではなく健康にもよいとしてそれまで以上に広く普及しました。
ポリフェノールは、水に溶けやすく、体内で吸収されやすいと言う特徴があります。
ポリフェノールの代表的なのものには、赤ワインの原料となるぶどうや、ブルベリー、ビルベリーなどに多く含まれるアントシアニンを始め、お茶に多く含まれているカテキン、コーヒーに含まれるクロロゲン酸、ごまに含まれるリグナンやセサミン、大豆に多く含まれるイソフラボン、そばに含まれるルチン、みかんやはっさくなどの柑橘類に含まれるヘスペリジンなどがあります。
カロテノイド
カロテノイドとは、植物や微生物に含まれる、黄色、だいだい色、赤色の色素成分です。
カロテノイドはポリフェノールとは違い脂溶性のため、水に溶けにくく油に溶けやすい特徴があることから、油を使った調理に向いています。
カロテノイドの代表格には、にんじんやかぼちゃ、ほうれん草に多く含まれるβ-カロテンがあります。
体によい成分として、名前くらいは聞いたことがあると言う人も多いのではないでしょうか。
またこの他にも、トマトやすいか、パプリカ(赤)に多く含まれるリコピン、ほうれん草やパセリなどに含まれるルテイン、サケやいくら、桜エビに含まれるアスタキサンチン(※1)などがあります。
(※1)鮭や桜エビは、それ自体がアスタキサンチンを生成するのではなく、アスタキサンチンを多く含むオキアミなどをエサにしているため、成分が体内に蓄積して身が赤く色づきます。
イオウ化合物
硫黄を含み、独特の強い刺激臭や辛味を伴うのが特徴です。
殺菌作用に優れているので、イオウ化合物を含む食品は食中毒を防ぐ目的で薬味として料理に添えられることが多くあります。
イオウ化合物の代表的なものには、にんにくや玉ねぎに含まれるアリシン(システィンスルホキシド)や、ブロッコリーやキャベツに含まれるスルフォラファン、わさびに含まれるアリルイソチオシアネート、大根に含まれるイソチオシアネートなどがあります。
中でも、スルフォラファンは抗ガン効果が高い成分として、近年はとても注目をされています。
ブロッコリーやキャベツよりも、新芽の状態(スプラウト)の方がその効果が20倍ほど高くなると言われているので、料理の付け合わせなどにスプラウトを使ってみるのもよいでしょう。
テルペン
柑橘類やハーブに含まれる、特有の香りや苦味成分がテルペンです。
日本ではお茶と言えば緑茶やほうじ茶などが一般的ですが、海外ではハーブティーをよく飲みます。
ハーブは古くから薬用として使用されており、ヨーロッパでは一般用医薬品として取り扱われているハーブも存在するほどで、その効果は医学的にも認められています。
また、ハーブは飲むだけではなく、リラックスを促す時などにアロマオイルを焚く人がいますが、これらの香りの成分にも抗酸化作用を促す効果が期待できます。
テルペンの代表的なものには、レモンに含まれるリモネンや、ハッカに含まれるメントールなどがあります。
サポニン
独特の苦味や渋味があり、水に溶かして混ぜると泡立つことから、ラテン語で石鹸を意味する「サポ」が名前の由来となっています。
サポニンには、血管内に付着した過酸化脂質を溶解して排出する働きがあることから、天然の界面活性剤と呼ばれています。
サポニンは植物の根や茎、葉に多く含まれており、大豆に含まれる大豆サポニンや、高麗人参に多く含まれる高麗人参サポニンなどがあります。
ファイトケミカルの摂取方法
野菜や果物は加熱調理をするとビタミンやミネラルが失われてしまうため、できるだけ生のままで食べた方がよいと言われています。
しかし、ファイトケミカルに関しては、熱を加えることで細胞膜が破壊され、体内にてより効率よく摂取されると言われています。そのため、ファイトケミカルを摂取するなら、スープにするのがお勧めです。スープなら水溶性のファイトケミカルであっても、煮汁に成分が溶け出すので余すことなく摂取することができます。
また、調理の際には、野菜などはまるごと使うとよいです。なぜなら、ファイトケミカルは種や皮の部分に多く含まれるからです。
煮込む時は蓋をするようにすると、揮発して成分が失われてしまうこともありません。
できるだけ食物から摂取する
ファイトケミカルを手軽に摂取したい人は、サプリメントの利用を考えるかと思いますが、ファイトケミカルは一種類だけを継続して摂取するより、色々な種類を摂る方がその効果がより発揮されやすくなると言われています。
そのため、サプリメントの使用よりも、食事では野菜や果物、きのこ類、海藻など様々な食物を食べるように心がけるのがよいです。